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ブランディングとオフィスデザイン


世界のトップを走る多くの経営者は、文化関心度が高く、特にアートコレクターであることが多く、実際にアート教育を受けてきた経営者も少なくはありません。そして、日本の経営者の中にも、美意識を高めろ!学ぶならアートを学べ!と言う人が増え始めています。これは、前回の「経営戦略とアート The MBA is the New MBA キャサリン・ベルインタビューの感想など」でも話したように、ビジネスにおいてアート思考が、成熟したと思われた経済に新たな突破口を築いた結果に他なりません。 実際、アート思考が注目される背景には、論理や理性で解決できない事象が増え始めてきたためだとも言われています。それは、個人の自己実現欲求が高まり、皆が良いものがGoodな時代から、私の生き方がこの商品・ブランドそのものだからといった個々の思想を実現・経験させられるものが共感を呼ぶ時代に変化したためだと言い換えることができるでしょう。 そして、ブランディングに必須とされるのは、「共感」を表現する力。 実際に、小さなベンチャーやコーヒーショップでさえ、生き方、思想、ヴィジョンそのものを「共感力」に変えることで経営においても大きな成果を出し、大企業へと急成長したケースも増えています。 そして、注目すべきは、視覚言語を効果的に活用しているという点です。 今回、インテリア建築という観点から、この「経営×アート」に切り込んでいきますが、圧倒的な成果を出している企業は、感性や人間関係、コミュニティを育む環境づくりを大切にしている点で共通しており、その考え方を実現化させる手段として視覚言語をうまく使いこなしているという点です。つまり、視覚言語に深く関わり合いがあり、これまでアイゼンハワー・マトリックスの第四象限にあるとされていたアートやデザインが第二象限を実現化させる新たな技術であるということが明らかになったということです。

少なくとも、デザインはこれまでも経営に寄り添い関わり合いを持ってきましたが、これまでは、むしろ感性としての表現手段として活用されてきましたが、これからは、思考を視覚に翻訳するという視覚言語としてデザインがより面白くなってきます。 なぜなら、視覚言語はあらゆる国の境界線を持たないユニバーサルな言語だからです。 わたしたちは、思考を言語化する手段として、日本語、英語、フランス語といった限界言語を使用し、すでに多くのコミュニケーションの限界を感じています。特に、共感を育むコミュニケーションが必要となる時代に有効な経営視点として、視覚言語のポテンシャルは一層高まっていくことでしょう。 ここでは身近な例としてオフィスデザインに注目します。

まずは、経営者目線からオフィスデザインが、事業にもたらす効果とはいったいどういったものなのか例を見ながら考えていきます。

かつて商品販売にかかる労力において一番重要視されていたのは「成約」にかけられる労力で、それは全体の約40%程度を占めていました。しかし、現在は、顧客から得られる「共感」の重要度が高まり、全体の約40%の割合を占め、逆に「成約」にかけられる割合は約10%だと言われています。 成約40% → 共感40% これは顧客が商品を通して経験を求めている時代を反映させた数字だと言えましょう。商品の製造に至るプロセス、そして企業の考え方、ブランドにまで関わり合いを持ちたい意識が高まっているのが現代社会。

顧客は、その商品を提供してくれる会社がどのような会社なのか、顧客が信頼し、共感できる会社かどうかを私たちは判断されているのです。

1. 企業の理念を空間情報に置き換える

また、SNSなどで視覚情報で、自社のこだわりや理念を容易に映しだしやすくなった時代だからこそ、顧客の想い、相手の立場に立った気配りへのこだわりが、空間デザインへも反映されているのです。特に顧客との接点が多いような会社では、顧客と従業員の間の社会的な相互関係を強められる機会を獲得することは、とても嬉しいことでしょう。顧客をリラックスして迎え入れ、ライブ感あふれる従業員の働く姿を生で見ていただくことは、きっと顧客にユニークで記憶に残る体験を提供することになるでしょう。 例えば、メルボルンにあるコンサルタント会社「Maximus」では、訪問者と「舞台裏」で行われる実作業を行う従業員との関係を可視化することで、大切にしている理念「コラボレーションと創造性」を顧客と共に共感することに成功している事例です。エントランス~ミーティングルーム~オフィスという形で顧客と会社との境界を柔らかく繋ぎ、繊細なディテールにより企業の質の高さを空間に表しています。

https://officesnapshots.com/2019/05/01/maximus-offices-melbourne/

2. 顧客・働く人への気配り・心配りを忘れない働く人の喜びの空間化 「神は細部に宿る※1」という言葉がありますが、事業も同じ。細部へのこだわりは、サービスを生み出す際のホスピタリティの表れです。オフィスとは、サービスを生み出す従業員、そのサービスを楽しみにしている顧客の喜びをイメージさせる格好の場。従業員全体のパフォーマンス向上はもちろん、企業が目指すライフスタイルを共有する場でもあります。

金融業「AKURA CAPITAL」のシカゴオフィス。ここでは、会社の出発点であるオーストラリアの海岸をイメージしたオフィス空間をつくり、初心を大切にした企業の在り方を空間に表しています。

https://officesnapshots.com/2019/11/18/akuna-capital-offices-chicago/

共感40%の時代であるからこそ、「空間デザインによるブランドの共有の共感」を得ることに注目されている理由がここにあるのです。 そして、オフィスデザインが経営戦略の一つとして生かされている理由がここにあるのです。 (神は細部に宿る※1:発祥については不明確で、一説にはフランスの作家ギュスターヴ・フローベールの言とされ、ドイツの建築家であるミース・ファン・デル・ローエなどがこれを有名にしたとされています)


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